2023.12.12
孤独な多胎児ママを減らしたい。笑い話も悩みも一緒に共有できる場所【一般社団法人tatamama代表理事牛島智絵さまインタビュー】
街で双子が乗っているベビーカーを目にすると、その微笑ましい姿に頬がゆるんでしまうことがあります。しかし実際多胎育児は思った以上に大変で、外出のハードルが高いこと、行政サービスの利用が難しいこと、それ以外にも多胎児ママの目線に沿った支援が出来ていないのが現状です。そこで牛島氏は、福岡市で多胎児ママに必要なサービスを展開するため、直接福岡市の市長である高島宗一郎氏に面談をし、多胎育児の実態や行政サービスの向上を訴えました。
さらに、2023年9月には託児付きコワーキング施設を運営するスタイルクリエイト株式会社と業務提携を締結。福岡市内で本格的に多胎児ママを支援する活動を開始しました。
今回は一般社団法人tatamama代表理事牛島智絵氏に、tatamamaを立ち上げた経緯から牛島氏の多胎育児の体験談までお話を伺いました。
《自らの多胎育児を通して見えた、多胎児ママが本当に必要なサービス》
−御社の事業内容を教えて頂けますか?
牛島智絵氏(以下敬称略):
私達は主に福岡市の多胎支援団体として活動し、多胎家族の交流会、専門家の相談会、メディアの運営、双子の妊娠初期から2歳半までの多胎育児に関するノウハウ、行政支援サービスについて、公式LINE、インスタグラム、YouTubeで情報発信をしています。
牛島:
また、今年度は毎月1回のクリニック、シェアスペース、店舗にて色々なお店や地元企業にご協力いただき、どういうものが皆さんに喜んでもらえるかコンセプトを変えつつ、試行錯誤しながら交流会を開催しています。
一般的に多胎児のママは、単胎児の育児と直面する問題や対応策が全く違うので、多胎児ママだけで集まることにとても意味があり、慌ただしい育児から離れてママが休息出来る居場所を提供しています。
専門家相談については、月に一度交流会とは別に開催しています。
自分達が答えられる質問は公式LINEでお答えしますが、専門的な知識が知りたい時は専門家をご紹介し、その方に直接ご相談して答えて頂く形をとっています。
《この子達を守るために私が出来ること。多胎児のママが置かれている現状》
−tatamamaを立ち上げようと思った経緯やきっかけを教えて下さい。
牛島:
まず最初の産院で「多胎児の出産はここでは出来ません」と言われ、多胎児の出産が可能な病院を数ヶ所の中から選び、転院しなければいけませんでした。しかも、基本多胎児はほぼ7割以上が早産で生まれてくるので、NICUに入ることを大前提にいろんなことを考えなければいけません。妊娠の種類も数パターンあり、NICUの病床数や面会の回数も病院によって違い、一卵性と二卵性もお腹の中の過ごし方が3種類あるので、それによって対策も変わってきます。さらに母体のトラブルに強い病院、胎児側の病気やトラブルに強い病院、双子特有の血流の行き来に強い病院など、得意な分野が各病院で異なっていました。
母子手帳を受け取りに行く際も、地域の多胎サークルの有無や、先輩双子ママを紹介して欲しいと保健師さんに相談しましたが、両方とも難しいとの回答。
福岡に仕事で移住し周りに知人もいなかったので、『この子達を守るためには誰に何を聞けばいいんだろう?』と途方に暮れてしまいました。それがきっかけで、もうリアルで出会えないのならSNSで繋がろうと思い、インスタグラムとYouTubeを始めました。
それから病院に何を聞くべきか先輩ママ達にダイレクトメッセージをして聞き、入院中はどの様に過ごしたら良いのか各病院の対応の違いや、自分が出来ることを検討したうえで、一番条件に近い病院を選びました。この多胎育児者にとって不利な立場を改善するため、同年代の多胎育児経験者3人で2023年7月一般社団法人tatamamaを立ち上げました。
《精神的、経済的負担が大きい多胎児のママ達》
−福岡市では多胎児のママ達に対してどのような行政のサービスがありますか?
牛島:
福岡市では基本的に保育園や託児サービスで預かってもらえるのが早いところで生後4ヶ月から。それ以前は生後3ヶ月から使えるファミリーサポート、妊娠中または生後1年未満(単胎児は6ヶ月が対象)の産前産後ヘルパー派遣という3つの行政サービスがあります。
ファミリーサポートは、地域のなかで育児を手伝いたい提供会員と、育児を助けて欲しい依頼会員をマッチングさせ、一定の時間子どもを預かってもらったり、育児の補助(子どもの習い事の送迎など)をしていただいたりするサービスとなっています。
利用には会員登録が必要となっており、依頼会員、提供会員双方とも講習の受講が必要で、講習会終了後利用可能となっています。
−牛島さんは実際にこのファミリーサポートや、民間の保育園を利用した時のことを次のように話してくれました。
牛島:
産後3ヶ月になるとすぐファミリーサポートを利用するために、区役所で双子を連れて1時間の研修を受けたのち、依頼会員登録をしました。後日マッチングで条件が合った提供会員さんのご自宅で面談をしましたが、残念ながら相手のご家族が「双子を育てたことがないので預かりは難しい」と断られ、結局利用を見送る形に。その時多胎児を他人に預けるハードルの高さを実感しました。
次に民間の一時保育や託児施設に預けようと試みたのですが、原則0歳児の保育は子供3人につき保育士1人以上配置すると決まっているので、1日に預かってもらえる人数に枠があります。そのため「1人だったら受け入れられます」と言われるのがほとんどで、やっと預け先が見つかったとしても、料金も2倍の支払いになるので、経済的負担が大きく気軽に預けるのは難しいのが分かりました。
産前産後ヘルパー派遣は、現在申込者の希望が多く、新規登録するのに時間がかかるため気軽に預けるのが難しくなっています。その結果、民間のシッターサービスを使うことが増えるので、多胎育児は経済的負担が大きくなってしまいます。
そこで私達tatamamaができることは何かを考え、現在行政とは別に多胎育児世帯を対象とした育児支援サービス「ピアサポートサービス」を展開できるように準備をしています。
《産前から産後まで多胎育児に悩むママに寄り添うためにできること》
−今準備しているピアサポートサービスについて教えて下さい。
牛島:
はじめに私達は産後家から外出できずに孤独になっている多胎児ママを減らそうと考えています。
ピアサポートサービスは産前産後の病院への同伴、外出・お買い物同伴、多胎育児経験者がご自宅に行き、相談やアドバイスをしたり、子供の世話を手伝ったりなど、2歳まで補助が必要な多胎育児世帯に向けたサービスを展開する予定です。
実際久留米市では導入されている行政サービスで、現在久留米市の多胎サークル(ツインズクラブ久留米)様にアドバイスを頂きながら早急に準備を進めているところです。多胎児ママにとって産後4ヶ月までは物理的な人手が必要で、行政サービスだけではマンパワーが足りないため、民間である私達が先輩多胎児ママ、助産師、保育士の資格を持っている方々と、多胎児ママが本当に必要なサービスが活用できるように、プロジェクトを進めている状況です。
《多胎児ママも気兼ねなく外出できる居場所作り》
−CREATIVE ROOMを利用し始めたのはなぜですか?
牛島:
私にとって子供と離れる時間はとても貴重でその時間をすごく大切にしています。特に産後4ヶ月以降はママがママの時間軸で過ごせる居場所が必要だと思っていて、そこを包括的にサポートしないと多胎児ママの孤独感は無くならないと考えています。誰でも最初は子供を他人に預けるのは勇気が必要で、預けた後も自分だけ自分の時間を過ごして良いのか不安を感じると思います。そういう意味ではCREATIVE ROOMの託児スペースは、保育園運営をされているスタイルクリエイト株式会社の施設なので、子供のお世話をするプロとして安心してお預けできますし、利用者の方達にも自信を持ってお勧めすることができます。
先日プレスリリースした業務提携では、双子は1人分の料金で託児可能になり、それまで感じていた金銭的負担や心理的ストレスを減らして利用できるようになりました。今後ママ達にはどんどん活用しリフレッシュする時間を設け、1人でも多胎育児に思い悩むママを減らすことで、虐待防止にも繋げていければと思っています。
《産前から始める多胎向け両親学級の必要性》
−一般社団法人tatamamaの今後の展望について教えてください。
牛島:
多胎世帯はどうしても単胎世帯に比べ、育児の負担が大きいため虐待死だけではなく、離婚率も高いと言われています。その原因の多くは、母親と父親の多胎育児の認識のズレではないかと考えています。
私自身も、産後育児のペースをつかむまでは、味方であるはずの夫が敵に見えていました。こうした事が起きない様に、妊娠時から子育てについてお互いの理想を話してきましたが、現実は思い通りにはいきませんでした。それでもなんとか話し合う場を作りましたが、日々の育児で心身共に疲弊しているため、不満をぶつけ合うだけの時間となっていました。これではダメだと思いお互い少しずつ歩み寄る努力をし、現在はワンチームで頑張ろうと、各自できる事をカバーし合いながら多胎育児に向き合っています。
この経験から妊娠期、産前、産後までどういう事が起きるかを想定できるように、多胎向け両親学級も来年からやっていこうと思っています。
多胎育児は想定外のことは当たり前で、何か問題に直面した時、臨機応変な対応ができることがとても大切になります。それゆえに多胎向け両親学級である程度の解決策を知っている事で、パニックにならず慌てずに対処が出来るだけでなく、夫婦でコミュニケーションを取りながら、強力なパートナーシップを育んでいける方法に繋がると思っています。
多胎向け両親学級については、現在不妊クリニックと連携して話を進め、妊娠期から多胎児のパパとしての自覚と、産後どう育児をサポートしたら良いかのhow toを勉強して頂くため準備をすすめています。
《双子で良かったと思える明るい未来を目指して》
最後に牛島氏は「双子だから大変なんですって言うつもりは毛頭ないんです。双子だろうが、年子だろうが、子育てが大変なのは変わらない。なかには福岡県にも双子を産んだあと三つ子ちゃんが産まれたご家庭もありますし、それぞれできるキャパは違うので、何を大変と感じるのかを発信していくことや、多胎育児経験以外にも多胎ママが置かれている現状を知っていただく活動こそがとても重要で、私達の役割はそこを担っていくことだと思います」と力強く話してくれました。
育児は毎日がハプニングの連続で思い通りにいかないことばかり。近くに同じ境遇の人がいることが分かるだけで安心できるのはもちろん、時には愚痴を吐き出したり、励ましあったり、そうした人と人との繋がりが育児ストレスによる孤立感を薄めるきっかけになるのではないでしょうか。
一般社団法人tatamamaは、多胎育児経験者ならではの目線で、様々な多胎支援サービスの利用が可能になるだけでなく、CREATIVE ROOMでは気軽に多胎児のお子様を預けてリフレッシュして頂ける場所として活用していただけます。
文:森山絢子